犬の乳腺腫瘍について
[No.285] 2015/02/10 (Tue) 02:31
久々のブログ更新になってしまい申し訳ありません。
ここ最近は有り難い事に毎日手術をさせていただいており、「昼休めず➡夜にどっと疲れが。。。」というサイクルを繰り返しておりました。
だんだん家に帰るのも億劫になってきております。。。
さて、言い訳はこれぐらいにして、本題に入りたいと思います。
先日、乳腺腫瘍の手術をさせていただいた、M.ダックスのコのお話です。
1年前に乳腺腫瘍が初めて見つかり手術、その後3か月前に乳腺腫瘍が再発し、再手術をされたとのことでした。
しかし、新たにまた再発したとのことで、来院されました。
犬の乳腺は計5対あるのですが、拝見すると、これまでの手術で左右の第3から第5乳腺を摘出されているようでした。
そして、新たに再発した乳腺腫瘍は、右の第2乳腺に2カ所、左の第3乳腺あたりと思われる部分に1カ所ありました。
まだ避妊手術をされていないとのことでしたので、出来る事なら同時に避妊もしてあげた方が今後の再発を少しでも抑えることができるとお話しし、手術を検討していただくことにしました。
その後、メールで飼い主様から次のような質問をいただきましたので、回答させていただきました。
普通の飼い主様が手術に対して疑問に思われている内容もあると思いますので、載せさせていただきます。
「先生、先週は診察ありがとうございました。
あまりに再発が早いので分かっていてもショックで診察の時に聞きたい事が聞けず帰ってしまいました…。
聞きたかった事を聞きたくてメールをしましたm(_ _)m
父とも相談した結果、乳腺腫での切る傷口の大きさが大きくない様なら避妊手術も一緒にしてもらいたいと思ってます。
ただ、避妊手術は今まで考えてなかったのであまり知らなくて不安があります…。
質問① 術後、人間でしたら、重い物を持ったりしたら腸とか下がるのであまり重い物を持ったりはしない様にって聞いた事があるのですが、犬は腸とか下がったりしないのでしょうか?
回答① 犬の場合は、避妊手術の影響で腸が移動したりすることはないと思います。
質問② 術後、犬によってはオシッコを失敗する子もいるみたいですがオシッコは出るんでしょうか?痛くて出来ないとかで我慢はしないんでしょうか?
回答② おしっこを失敗してしまうことを「尿失禁」というのですが、避妊手術の後、女性ホルモンが出なくなる影響で尿失禁を起こしてしまうことが数%の確率であると言われています。
尿失禁は若いコよりも高齢のコ、小型犬よりも大型犬に起こりやすいと言われています。
ただ、自分がこれまで避妊手術して、その後尿失禁を起こしたというコを聞いた事がないので、実際は教科書に書かれているよりは、確率は低いのではないかと思っています。
痛くておしっこ出来ないとか、我慢するということはないので安心してください。
質問③ 乳腺腫が短期間に再発しているのですが今回手術してもまた短期間に再発する可能性はありますか?…
Tちゃんは腫瘍が出来やすい子なんでしょうか?……
回答③ 理論的には、乳腺組織をすべて切除してしまえば、再発はないのですが、今回傷跡から再発しているところから判断すると、手術で乳腺組織は完全には取りきれていないと思うので、今後も再発する可能性はあります。
これはTちゃんだけではなく、避妊していないすべての雌犬は乳腺腫瘍になりやすいのです。
理想的には、初回発情前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発生率は0.05%になると言われています。
その後、発情を繰り返すごとに、避妊手術による乳腺腫瘍予防効果は落ちてしまうのですが、女性ホルモンが出続けている限りは、乳腺腫瘍は出来やすい状態になっているので、少しでも再発の確率を下げるために、避妊手術はしてあげた方がいいと思います。
質問④ Tちゃんは食べ物のアレルギーもあり、病院のドックフードも駄目なので入院中にドックフードを食べさせない様にお願いしたいのですがm(_ _)m
回答④ 乳腺腫瘍の手術の場合は、一泊入院になりますが、その間は、フードを与えてしまうと麻酔の影響で吐いてしまい誤嚥する可能性があるので、絶食になります。
なので、病院でフードを与えることはないのでご安心ください。
あと、避妊手術で細かいリスクの話をすると、M.ダックスのコは「縫合糸反応性肉芽腫」のリスクがあります。
これは、卵巣や子宮を取り出す際、血管を糸で縛る、あるいはお腹を閉じるのに糸で塞ぐのですが、術後、その糸に反応してしこりが出来てしまうことです。
糸に対するアレルギー反応のようなもので、M.ダックスはこれが起こりやすいことが知られています。
なるべくその反応を起こさないようにするために、当院では2、3か月で生体内で吸収されてなくなる糸を用いていますが、それでも、1−2%の確率で起こりうることをお伝えしておかなければなりません。」
以上が、質問と回答になります。
こうして、乳腺腫瘍の摘出と避妊手術をさせていただくことになりました。
避妊と乳腺腫瘍を同時にする場合、一般的にはガンの播種を考慮し、避妊手術を先にしてしまいます。
今回も避妊手術を先に行い、その後、右の第1と第2乳腺の領域乳腺切除術、左の乳腺腫瘤摘出を行いました。
手術前の写真。

黒いマーカーで、腫瘍のある部分を示しています。
手術中の写真。

乳腺腫瘍の手術は乳腺まわりから細かい出血が多いので、電気メスで止血していきます。
手術は無事終了し、術後も順調に回復しましたので、次の日退院となりました。
4日後再診時の写真。

傷口が大きくて痛々しいですが、術後の腫れもなく、キレイにくっついています。
理想的には、初回の発情前に避妊手術を行う事で、ほとんどの乳腺腫瘍を予防する事ができますが、運悪く乳腺腫瘍になってしまったとしても、早期発見、早期治療で完治出来るので、もし発見したら早めの病院への受診をお勧めします。
ここ最近は有り難い事に毎日手術をさせていただいており、「昼休めず➡夜にどっと疲れが。。。」というサイクルを繰り返しておりました。
だんだん家に帰るのも億劫になってきております。。。
さて、言い訳はこれぐらいにして、本題に入りたいと思います。
先日、乳腺腫瘍の手術をさせていただいた、M.ダックスのコのお話です。
1年前に乳腺腫瘍が初めて見つかり手術、その後3か月前に乳腺腫瘍が再発し、再手術をされたとのことでした。
しかし、新たにまた再発したとのことで、来院されました。
犬の乳腺は計5対あるのですが、拝見すると、これまでの手術で左右の第3から第5乳腺を摘出されているようでした。
そして、新たに再発した乳腺腫瘍は、右の第2乳腺に2カ所、左の第3乳腺あたりと思われる部分に1カ所ありました。
まだ避妊手術をされていないとのことでしたので、出来る事なら同時に避妊もしてあげた方が今後の再発を少しでも抑えることができるとお話しし、手術を検討していただくことにしました。
その後、メールで飼い主様から次のような質問をいただきましたので、回答させていただきました。
普通の飼い主様が手術に対して疑問に思われている内容もあると思いますので、載せさせていただきます。
「先生、先週は診察ありがとうございました。
あまりに再発が早いので分かっていてもショックで診察の時に聞きたい事が聞けず帰ってしまいました…。
聞きたかった事を聞きたくてメールをしましたm(_ _)m
父とも相談した結果、乳腺腫での切る傷口の大きさが大きくない様なら避妊手術も一緒にしてもらいたいと思ってます。
ただ、避妊手術は今まで考えてなかったのであまり知らなくて不安があります…。
質問① 術後、人間でしたら、重い物を持ったりしたら腸とか下がるのであまり重い物を持ったりはしない様にって聞いた事があるのですが、犬は腸とか下がったりしないのでしょうか?
回答① 犬の場合は、避妊手術の影響で腸が移動したりすることはないと思います。
質問② 術後、犬によってはオシッコを失敗する子もいるみたいですがオシッコは出るんでしょうか?痛くて出来ないとかで我慢はしないんでしょうか?
回答② おしっこを失敗してしまうことを「尿失禁」というのですが、避妊手術の後、女性ホルモンが出なくなる影響で尿失禁を起こしてしまうことが数%の確率であると言われています。
尿失禁は若いコよりも高齢のコ、小型犬よりも大型犬に起こりやすいと言われています。
ただ、自分がこれまで避妊手術して、その後尿失禁を起こしたというコを聞いた事がないので、実際は教科書に書かれているよりは、確率は低いのではないかと思っています。
痛くておしっこ出来ないとか、我慢するということはないので安心してください。
質問③ 乳腺腫が短期間に再発しているのですが今回手術してもまた短期間に再発する可能性はありますか?…
Tちゃんは腫瘍が出来やすい子なんでしょうか?……
回答③ 理論的には、乳腺組織をすべて切除してしまえば、再発はないのですが、今回傷跡から再発しているところから判断すると、手術で乳腺組織は完全には取りきれていないと思うので、今後も再発する可能性はあります。
これはTちゃんだけではなく、避妊していないすべての雌犬は乳腺腫瘍になりやすいのです。
理想的には、初回発情前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発生率は0.05%になると言われています。
その後、発情を繰り返すごとに、避妊手術による乳腺腫瘍予防効果は落ちてしまうのですが、女性ホルモンが出続けている限りは、乳腺腫瘍は出来やすい状態になっているので、少しでも再発の確率を下げるために、避妊手術はしてあげた方がいいと思います。
質問④ Tちゃんは食べ物のアレルギーもあり、病院のドックフードも駄目なので入院中にドックフードを食べさせない様にお願いしたいのですがm(_ _)m
回答④ 乳腺腫瘍の手術の場合は、一泊入院になりますが、その間は、フードを与えてしまうと麻酔の影響で吐いてしまい誤嚥する可能性があるので、絶食になります。
なので、病院でフードを与えることはないのでご安心ください。
あと、避妊手術で細かいリスクの話をすると、M.ダックスのコは「縫合糸反応性肉芽腫」のリスクがあります。
これは、卵巣や子宮を取り出す際、血管を糸で縛る、あるいはお腹を閉じるのに糸で塞ぐのですが、術後、その糸に反応してしこりが出来てしまうことです。
糸に対するアレルギー反応のようなもので、M.ダックスはこれが起こりやすいことが知られています。
なるべくその反応を起こさないようにするために、当院では2、3か月で生体内で吸収されてなくなる糸を用いていますが、それでも、1−2%の確率で起こりうることをお伝えしておかなければなりません。」
以上が、質問と回答になります。
こうして、乳腺腫瘍の摘出と避妊手術をさせていただくことになりました。
避妊と乳腺腫瘍を同時にする場合、一般的にはガンの播種を考慮し、避妊手術を先にしてしまいます。
今回も避妊手術を先に行い、その後、右の第1と第2乳腺の領域乳腺切除術、左の乳腺腫瘤摘出を行いました。
手術前の写真。

黒いマーカーで、腫瘍のある部分を示しています。
手術中の写真。

乳腺腫瘍の手術は乳腺まわりから細かい出血が多いので、電気メスで止血していきます。
手術は無事終了し、術後も順調に回復しましたので、次の日退院となりました。
4日後再診時の写真。

傷口が大きくて痛々しいですが、術後の腫れもなく、キレイにくっついています。
理想的には、初回の発情前に避妊手術を行う事で、ほとんどの乳腺腫瘍を予防する事ができますが、運悪く乳腺腫瘍になってしまったとしても、早期発見、早期治療で完治出来るので、もし発見したら早めの病院への受診をお勧めします。
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*** COMMENT ***
あれ?
NO TITLE
我が家の さくらも 乳腺腫瘍の切除と 避妊手術してもらいました
腫瘍は悪性でしたが 先生に綺麗に 取り除いて頂きましたし
避妊したときには 子宮に水がたまってたので
ほっとけば 蓄膿症になつてた可能性もあり 手術して 正解でした
ごんごんさんの ダックスちゃんも
無事に手術も終わって ほんとによかったですね
腫瘍は悪性でしたが 先生に綺麗に 取り除いて頂きましたし
避妊したときには 子宮に水がたまってたので
ほっとけば 蓄膿症になつてた可能性もあり 手術して 正解でした
ごんごんさんの ダックスちゃんも
無事に手術も終わって ほんとによかったですね
NO TITLE
ごんごん様
フォローのコメントありがとうございます。
バレンタインのチョコもありがとうございました!
とても美味しかったです。
先日無事抜糸も終わり、腫瘍も病理検査の結果は良性でしたので、本当に良かったですね。
ポッケ&さくらママ様
コメントありがとうございます。
さくらちゃんは、早い段階で手術させていただいたので、小さい傷口で取りきることができました。
普段から意識して、定期的に触診していた結果だと思います。
子宮水腫も早い段階で手術で取る事ができて、本当に良かったと思います。
フォローのコメントありがとうございます。
バレンタインのチョコもありがとうございました!
とても美味しかったです。
先日無事抜糸も終わり、腫瘍も病理検査の結果は良性でしたので、本当に良かったですね。
ポッケ&さくらママ様
コメントありがとうございます。
さくらちゃんは、早い段階で手術させていただいたので、小さい傷口で取りきることができました。
普段から意識して、定期的に触診していた結果だと思います。
子宮水腫も早い段階で手術で取る事ができて、本当に良かったと思います。
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傷口がつっぱって見えてますね(@_@;)
先生すみません(T_T)
皆様、実際には傷口はつっぱってないのでご安心して下さい(^_^;)